🔍 ひとことで言うと。イタリア語のcodesto(コデスト)は「あなたのところにあるその」を意味する忘れられた指示形容詞・指示代名詞です。三つの距離を区別する古典的な指示詞のうちの一つで, questo(私の近くにあるこの), codesto(あなたの近くにあるその), quello(私たちの両方から離れたあの)。現代の標準イタリア語ではほぼ消滅していますが, トスカナ方言, 法律文書, 行政用語で生きています。「Vi prego di prendere visione di codesta lettera.(あなた方の手元のこの手紙にお目通しください)」のような形で官僚イタリア語に残る言葉。C1・伊検準1級から1級にかけて, 歴史と地域差を知るうえで重要な単語です。
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- codesto と三つの距離の指示詞
- codesto の使い方と変化
- トスカナ方言での生命
- 法律と官僚イタリア語での使い方
- 日常で使う10例文 (古典・官僚)
- 日本人がつまずくポイント
- 会話 (dialogo)
codesto と三つの距離の指示詞
questo, codesto, quello の三角関係
イタリア語にはもともと, 三つの距離を区別する指示詞の体系がありました。questo(話し手の近く – これ・この), codesto(聞き手の近く – それ・その), quello(話し手も聞き手も離れた – あれ・あの)。これは日本語の「これ・それ・あれ」と完全に対応する美しい三角関係です。古典的なトスカナ方言, マンゾーニ『婚約者』, ヴェルガの作品で頻出していました。「Codesto libro che tieni in mano è interessante?(あなたの手にあるその本は面白い?)」のように。
現代の標準イタリア語では codesto はほぼ消滅しました。「あなたのほうのそれ」を表すには quello を使うか, 名詞で繰り返すのが一般的です。「Il libro che hai in mano」(あなたが手に持っている本)「Quel libro lì」(そこのその本)のように。codesto はトスカナ方言, 法律文書, 行政用語, 古い文学作品でのみ生きています。日本人が「これ・それ・あれ」の感覚をイタリア語にそのまま当てはめると, 自然な表現にならないので注意が必要です。
| 距離 | 古典イタリア語 | 現代標準 | 日本語 |
|---|---|---|---|
| 話し手の近く | questo | questo | これ・この |
| 聞き手の近く | codesto | quello (lì) / questo (が混合) | それ・その |
| 両者から離れた | quello | quello | あれ・あの |
codesto の使い方と変化
形容詞と代名詞
codesto は形容詞としても代名詞としても使えます。形容詞の変化は codesto(男性単数), codesta(女性単数), codesti(男性複数), codeste(女性複数)。questo と quello と同じパターンです。「Codesto libro」(あなたのその本)「Codesta lettera」(あなたのその手紙)「Codesti documenti」(あなたのそれらの書類)「Codeste idee」(あなたのそれらの考え)のように使います。古典文学では普通の形容詞のように現れます。
代名詞としても同じ変化形で使えます。「Codesto è il libro che cercavo.(あなたの手元のその本が探していたものだ)」「Codesta è la mia opinione.(あなたが聞いているそれが私の意見だ)」のように。マンゾーニ『婚約者』では「Date a me codesta lettera!(あなたが持っているその手紙を私に!)」のような表現で頻出します。現代の口語ではあまり聞きませんが, 古典を読むうえでは必須の知識です。
トスカナ方言での生命
codesto が今も生きる場所
codesto は現代でもトスカナ方言では普通に使われます。フィレンツェ, シエナ, ルッカ, アレッツォの市場や家庭の会話で「Codesto pomodoro è bello!(あなたのほうのこのトマト, きれい!)」「Dammi codesta forchetta.(あなたの近くのそのフォークを私にちょうだい)」のような表現が現役で生きています。「あなたの近くのそれ」を「lì」(そこ)と組み合わせる必要なく, codesto 一語で表現できます。
トスカナ以外の地域では消えていますが, トスカナの作家や映画監督が作品で再現することがあります。エルザ・モランテ, ピエル・パオロ・パゾリーニ, アンナ・バンティのような作家は登場人物の方言を表すために codesto を使います。「«Prendi codesto pane, è ancora caldo!», disse la nonna.(「そのパンを取って、まだ温かいよ!」とおばあちゃんが言った)」のような会話文で頻出します。トスカナの文化と方言を尊重する作家にとって, codesto は地域のアイデンティティの一部です。
法律と官僚イタリア語での使い方
burocratese の独特な世界
イタリアの法律文書や行政書類では codesto が「あなたの機関に」「あなたのオフィスに」を表すために生き残っています。役所の手紙では「Vi prego di prendere visione di codesta nota.(あなたの機関のこの書類にお目通しください)」「Codesto ufficio è invitato a esaminare la pratica.(あなたのオフィスは案件を検討するようお招きする)」のような表現が頻出します。これは「burocratese」(官僚イタリア語)と呼ばれる独特の文体で, 19世紀から続く伝統です。
裁判所の判決書, 弁護士の手紙, 役所の通知でも codesto が頻出します。「Codesto Tribunale di Firenze…(フィレンツェのそのお手元の裁判所…)」「Vi inviamo copia di codesta sentenza.(あなたのところに送る, このコピーの判決書)」のような表現で, フォーマルさと敬意を強調します。普通のメールやビジネスメールでは使いませんが, 法律家やお役所と書類をやり取りする日本人にとっては, 一度は出会う表現です。
- Si prega di restituire codesto modulo compilato entro il 30 aprile.
こちらの用紙を記入のうえ4月30日までにご返却ください。 - Vi ringraziamo per l’attenzione prestata a codesta richiesta.
本要請にご注意をお寄せいただきありがとうございます。 - Codesto ufficio è tenuto a rispondere entro venti giorni.
当該の事務所は20日以内に回答する義務があります。
日常で使う10例文
文学・トスカナ・官僚
- Mi prestate codesto libro che state leggendo?
あなたが読んでるそのご本を貸してくれませんか?(文学的) - Codesta lettera che tieni in mano è importante.
あなたが手にしているその手紙は大切だ。 - Date a me codesto pane, prima che si raffreddi!
そのパンを冷める前に私にちょうだい!(トスカナ) - Codesti documenti vanno firmati e restituiti.
あなたのそれらの書類は署名のうえご返却ください。(官僚) - Codeste opinioni che esprimi sono ben fondate.
あなたが述べているそれらの意見はしっかり根拠がある。 - Vi prego di consultare codesta nota tecnica.
このお手元の技術文書をご確認ください。 - Codesto è il problema che dobbiamo affrontare.
あなたが話しているその問題こそ私たちが取り組むべきだ。 - Codesta è la nostra ultima proposta.
あなたが受け取ったその提案が私たちの最後の提案だ。 - Ti prego di non leggere codesto messaggio in pubblico.
あなたが持っているそのメッセージを公の場で読まないで。 - Codesto Tribunale ha emanato la sentenza il 10 marzo.
当該裁判所は3月10日に判決を出しました。
codesto の歴史的背景
古典イタリア語から現代まで
codesto はラテン語の「eccu istum」(その人)が縮約した語形と考えられています。中世のフィレンツェの作家ダンテ・アリギエーリやペトラルカの作品で頻繁に登場し、ルネサンス期のトスカナ方言の中で安定した地位を得ました。マキャヴェッリやグィッチャルディーニのような16世紀の歴史家も「codesto Principe」(あなたのところの君主)「codesta Repubblica」(あなたの共和国)のような表現で頻繁に使いました。三つの距離の指示詞の体系はイタリア語の論理的構造を支える美しい仕組みでした。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて, 標準イタリア語の規範が固まる過程で codesto は徐々に消えていきました。北部の話者は二極化した「questo / quello」だけを使うようになり, codesto は「不要な余分」として扱われるようになりました。マンゾーニ『婚約者』はトスカナ方言を標準化する役割を果たしましたが, 結果として codesto を含む豊かな三角関係も失われました。今でもトスカナ方言で生き残っているのは、地域のアイデンティティと文化への愛着の証です。
- Dante usò codesto nel Convivio per parlare con il lettore.
ダンテは『饗宴』で読者に話しかけるのに codesto を使った。 - Machiavelli scrisse: «Codesto Principe deve essere astuto».
マキャヴェッリは「その君主は狡猾でなければならない」と書いた。
codesto を使う現代作家
伝統を守る5人
現代のイタリア作家のなかで codesto を意図的に使う作家を5人挙げましょう。エルザ・モランテ『歴史』, アンナ・バンティ『アルテミジア』, ピエル・パオロ・パゾリーニの詩, アントニオ・タブッキの一部の作品, アンドレア・カミッレリの探偵モンタルバーノ・シリーズ。これらの作家は登場人物のセリフやナレーションで codesto を再現し、トスカナや南部の方言, 古典的な文体, 法律的なレジスターを伝えるのに使います。
カミッレリの作品ではとくに興味深いです。シチリアを舞台にした探偵小説ですが, 主人公モンタルバーノ警視がトスカナ方言の影響を受けた表現で「Codesta lettera… vediamo cosa dice」(その手紙… 何と書いてあるか見てみよう)のような表現を使うことがあります。これは作家の言語的な遊びで、地域のアイデンティティを尊重しつつも標準イタリア語の伝統を生かす技法です。読書で意識して観察すると, 作家の意図と地域文化の豊かさが見えてきます。
日本人がつまずくポイント
三つの落とし穴
日本語話者が codesto でつまずく主な理由は三つです。一つ目は, 「これ・それ・あれ」を直訳して codesto を使うこと。現代会話では quello + lì や名詞で繰り返すほうが自然です。「あなたが持っているその本」は「il libro che hai in mano」または「quel libro lì」と表現するのが普通で、codesto は古風すぎます。二つ目は, codesto を日常会話で使うこと。トスカナ方言を除いて、現代の標準会話では出てきません。古典の翻訳, 法律文書, 古い手紙でしか役に立ちません。三つ目は, 変化形を間違えること。codesto, codesta, codesti, codeste の四つの形を所有される名詞に合わせます。
会話
dialogo
ルッカの古い書店で、ハルカがトスカナ出身の店主マッテオに、古典文学に出てくる codesto について質問しています。codesto の文学的・地域的な側面が出てくる場面です。
👱🏼♀️ Haruka: Matteo, sto leggendo Manzoni e ho trovato la parola codesto. Cosa significa?
マッテオ、マンゾーニを読んでいて codesto という言葉を見つけた。どういう意味?
👨🏽🦱 Matteo: Significa “quello vicino a te”, “il tuo”. È un demonstrativo che indica la zona del tuo interlocutore.
「あなたの近くのそれ」「あなたの」を意味する。相手の領域を指す指示詞だよ。
👱🏼♀️ Haruka: Si usa ancora?
今でも使う?
👨🏽🦱 Matteo: Solo in Toscana e nel linguaggio burocratico. Per esempio nei documenti del Tribunale di Firenze.
トスカナと官僚言語だけ。例えばフィレンツェの裁判所の書類とか。
👱🏼♀️ Haruka: Allora in conversazione normale uso quello o questo?
じゃあ普通の会話では quello か questo を使う?
👨🏽🦱 Matteo: Esatto. Per oggetti vicini a te dici “questo” o nomini direttamente l’oggetto. Per oggetti vicini al tuo interlocutore, dici “quello” con “lì”.
その通り。自分の近くのものは「questo」または物の名前を直接言う。相手の近くのものは「quello」と「lì」を組み合わせるんだ。
👱🏼♀️ Haruka: Grazie. È bello sapere che codesto vive ancora nella tua regione.
ありがとう。codesto があなたの地域でまだ生きているなんて素敵。
🎯 ミニチャレンジ
mini sfida
🎯 ミニチャレンジ。かっこに codesto, codesta, codesti, codeste のどれかを入れてください。
- Vi prego di leggere ___ documento entro venerdì.
- ___ lettera che tieni in mano è importante.
- ___ documenti vanno firmati prima della scadenza.
- Esprimete chiaramente ___ opinioni nella riunione.
- Vi inviamo copia di ___ sentenza.
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1. codesto(男性単数 documento)
2. Codesta(女性単数 lettera)
3. Codesti(男性複数 documenti)
4. codeste(女性複数 opinioni)
5. codesta(女性単数 sentenza)
クイズ
quiz
理解できたか、クイズで確認しましょう。
(クイズ準備中)
よくある質問
Domande frequenti
codesto について、日本人学習者からよく寄せられる質問をまとめました。
codesto は今でも普通に使えますか?
標準の現代会話ではほぼ使われません。トスカナ方言(フィレンツェ、シエナ、ルッカ)では今も生きており、法律文書や行政書類では生き残っています。日常会話で使うと古風な印象を与えるので、トスカナ以外では避けるのが賢明です。古典文学の読解や法律文書の理解には知識として必要です。
代わりに何を使いますか?
相手の近くにある対象を指すには「quello + lì」(あれ・そこに)や、名詞で繰り返す方法が一般的です。「あなたの手元のその本」は「il libro che hai in mano」または「quel libro lì」と表現します。「あなたが言っているその件」は「la questione che dici」のように、関係代名詞を使うのが自然です。
トスカナでは本当に使われていますか?
はい、トスカナの市場、家庭、商店では今でも普通に聞かれます。「Codesto pomodoro è bello!」「Dammi codesta forchetta!」のような表現が日常です。トスカナ出身の作家(モランテ、バンティ、パゾリーニ)の作品でも登場人物のセリフを通じて再現されます。
官僚イタリア語ではどんな表現がありますか?
「Vi prego di prendere visione di codesta nota」(このお手元の書類にお目通しください)「Codesto ufficio è tenuto a rispondere」(当該の事務所は回答の義務がある)「Vi inviamo copia di codesta sentenza」(このコピーの判決書をお送りします)のような表現が典型です。19世紀から続く burocratese と呼ばれる文体です。
questo, codesto, quello の三つは日本語と同じ?
はい、ほぼ完全に対応します。questo = これ(話し手の近く)、codesto = それ(聞き手の近く)、quello = あれ(両者から離れた)。これは日本語の三つの距離の指示詞と同じ概念です。古典イタリア語ではこの三角関係がはっきり保たれていましたが、現代では questo と quello に二極化しています。
試験(伊検準1級・1級)に出ますか?
はい、読解問題で出題されることがあります。とくに19世紀文学(マンゾーニ)や法律文書の抜粋が出されたとき、codesto の意味を正確に理解できるかが問われます。日本語の「それ」とイタリア語の codesto の対応を理解しておけば、文中の指示対象を正確に把握できます。




